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5 化石の意味と化石からのメッセージ |
化石の意味 地球上に生物が発生してから、現在までの地質時代に生活していた古生物の遺骸と遺跡を化石といいます。ただし、1万年に満たないものは化石と呼ばないで単に遺骸と呼んで区別しています。また化石は出来方によって次のような呼び方もします。 1 体化石…古生物の体全体、もしくは体の一部が残っている化石 貝殻、骨、うろこ、シベリアなどで氷漬けになっているマンモスの肉や毛皮など 2 印象化石…古生物の体の形のみ残っているものをいいます 木の葉の形、クラゲの形、貝殻が溶けて形や模様のみ残ったものなど 3 生痕化石…古生物の生活の跡などが残ったもの 巣穴、食い歩き跡、恐竜の足跡、カニの這った跡など 4 微化石…肉眼では見えにくい微小な生物などの化石 コケ虫、放散虫、コノドント、フズリナ、オストラコダ(貝形虫)、花粉の化石、胞子の化石など |
化石からのメッセージ 化石は私たちの生活に大変関係が深く、動植物の進化や分類、大昔の地球上の様子など多くのことを私たちに教えてくれます。 1 示相化石…その古生物が生きていた当時の周りの環境(気温、水温、周りの様子、海陸分布)などを教えてくれます。 ○サンゴ…暖かくて浅い海、シジミ…川や湖沼、生痕…生活の様子。 2 示準化石…その古生物が限られた時代のみ多数生存していて、しかも世界中に広く分布していた化石で、その生物のいた地質時代がわかります。 ○古生代…三葉虫、フズリナ、クサリサンゴ、ハチノスサンゴ、リンボク ○中生代…恐竜、アンモナイト*、イノセラムス、シカデオイデア ○新生代…ナウマンゾウ、マンモス、メタセコイア、ヒシ、シカ、貨幣石 3 化石からわかること 化石を調べることで、昔どんな生物(種類)がいたとか、進化の様子などを知ることができます。 ○地層からアンモナイトやイノセラムス、シカデオイデアなどの化石が見付かりました。 A…時代は白亜紀、当時そこは暖かい海で近くには陸がありました。 ○粘土層からメタセコイア、ヒシ、オニバスなどが見付かりました。 A…時代は鮮新世で、そこは当時湖か沼で、気候は温暖でした。 ○高い山の石灰岩からサンゴの化石が多く産出しました。 A…南の海にあったサンゴ礁がプレートに乗って陸地に押し付けられ、現在位置まで押し上げられたと考えられます。 化石や地質の研究は私たちの生活に必要な地下資源の発見や、地質構造、地震や火山の仕組みを知る上でも重要なことなのです。 *古生代後半の示準化石もあります。 |
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6 化石採集の手引き |
化石に興味を持つ人々にとって、大自然の地層中から自分の手で、太古の生物の遺骸であった化石を発見し採集することは、何事にも代えられない感動や喜びを覚えるものです。しかし時には怪我や崖崩れなどに遭遇する危険性も含まれています。いきなり野外に飛び出してもそうたやすく発見出来るものえもなく、それ相応の準備や下調べなしには目的は果たせません。また、採集場所はいつも安全な平地とは限りません。 それではこれから化石採集を始める人のために、どうすれば楽しく安全に採集できるか、私たちの経験をもとに最小限度必要な準備や採集方法、注意しなければならない点について述べることにします。 1.採集計画 @採集地…経験者はさておき、初心者では「どこに、どんな化石があるか」前もっての下調べが必要になります。また現地の予備知識をもつことは、何かと準備にも役立つし、採集の能率も上がります。また、採集場所が工事現場や採石場などでは、前もって許可を得ておくことも大切なことです。 A日程…化石産地までの道順、所要時間なども忘れないで調べておきましょう。 2.採集のための準備 @採集用具 ・ハンマー 採集能率は先ずハンマーによって決まります。大きさは、目的によっても変わりますが、普通は中型(750g〜850g)の岩石ハンマーがあれば大抵は間に合います。ただし、石灰岩の砕石場で大きい岩を割るときは玄能があると便利です。また、粘土質の岩石の時は移植ごてやて手鍬が使い易くて良いでしょう。小さすぎるとなかなか石が割れないようです。 ・タガネ 平型と丸型の2本必要です。大きさは15〜16cmが適当です。 ・金てこ(長さ60cm) 石割りや掘るのに威力を発揮します。 ・ルーペ・霧吹き 石灰岩中の化石(サンゴやフズリナ等)を見付けやすくします。 A服装 ・季節によっても変わりますが、基本的には作業がしやすく、厚手の丈夫な物が良いようです。上着は虫刺されや、石、小枝による怪我等の防止のために夏でも長袖の着用を勧めます。 ・手袋 滑り止めの付いたものを着用しましょう。これは金槌の滑り止めと手の怪我防止に有効です。 ・雨具 天気予報を見て決めましょう。 ・帽子 頭を守るのにぜひ必要です。工事用のヘルメットなら理想的です。 ・靴 ハイキング用の丈夫で滑らないものが良いでしょう。なお岩場や崖ではトビ職用の地下足袋が、軽くて滑らないので楽です。 Bその他 ・リュックサックは丈夫な布地の物を選びましょう。また肩紐は幅広く、取り付けがしっかりしているか確かめておきましょう。 ・古新聞 採集した化石はそれぞれ古新聞でしっかり包み、運搬途中で破損するのを防止します。 ・ダンボール 車で運搬するとき新聞で包んだ化石はダンボールに固く詰めて動かないようにすると大切な化石が割れません。 ・弁当や水筒は半日以上の日程ではぜひ準備しましょう。夏は特に必要です。 ・その他 目的に応じてヤッケ、ハンカチ、ビニール袋、カットバン、ナイフ、カメラ、サイフ、布の手提げ袋、メモ用紙、図鑑、防塵メガネも準備します。準備物は前日に揃えて、忘れ物がないか確認しておくと採集地に到着してから慌てなくてすみます。 3 採集上の注意 ・危険な場所や落石のある崖下には近づかないように注意しましょう。また、工事中の現場には許可なしで入らないようにしましょう。必ず責任者の許可を受けてから採集するようにします。 ・崖上や斜面上で採集する時は、絶対に下に石をおとしてはいけません。その時見えなくても、もし下に人がいたり、家があったときは大事故になる危険性があるのです。もちろん危険な場所には上がらないで下さい。採集した跡はきちんと片付けてから帰るように心がけましょう。 また、遠くの採取地には、一人でなく二人から三人で行くようにしましょう。 4 採集の方法 @化石産地の調べ方 ・初心者は、化石の産地や種類、道順など、詳しい友人や先輩によく聞くと、手っ取り早く分かります。最も確実な方法は、経験者に案内してもらうことです。それが出来ないときは博物館で聞いたり、その地域の地学案内書などを求めて研究することをお勧めします。 ・化石産地近くで地元の人を見掛けたら、聞いて見るのも良い方法でしょう。思いがけない良い情報を得られるものです。 A化石の見付け方 ・化石産地に到着して先ず地層全体の様子を観察したら、露頭や転石に化石がないか探しましょう。化石の破片が一個でも見付かれば、近くに化石の産地があると思います。なお、現地に行く前に博物館などでどんな石に、どんな種類の化石が入っているか前もって確かめておくと早く発見しやすくて能率的です。 B 化石の掘り出し方 ・化石が見付かれば周りの露頭をよく探し、採集に掛かります。 ・取り出す時、タガネは必ず化石から少し離して叩き、化石を傷つけないように注意しましょう。 ・礫などから化石の分離が困難な時は、無理に割らないでそのまま持ち帰り、家で丁寧に取り出すほうがうまく行きます。また、母岩が大き過ぎて動かせないときも、けっして化石を叩き割ったりせずに、そのままの様子を写真に記録して、貴重な研究資料として役立てるようにしましょう。 もし採集中に化石が欠けたり壊れた時は、捨てないでボンドなどで接着して持ち帰るように心掛けましょう。何億年も地層中に埋もれていた貴重な研究資料ですから、大切にしましょう。 皆さんが「スバラシイ化石」に出会えることを祈ります。 |
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引用・参考文献 | |
1 Bando,Y(1964b):The Triassic stratigraphy
and Ammonite Fauna ob Japan.Sci.Rep.Tohoku Univ.,2nd ser.(Geol),Vol.36,P.1-37 2 坂東祐司(1965):愛媛県東宇和郡田穂の三畳紀アンモナイトについて、愛媛の地学,第4号,P.10-16 3 坂東祐司(1967):愛媛県東宇和郡田穂(下部三畳系)からアンモナイト,Juvenitesの発見.愛媛の地学,永井先生還暦記念号,109-110. 4 地学団体研究会編(1996):新版地学事典. 平凡社 5 地学団体研究会地学事典編集委員会(1970):地学事典, 平凡社 6 地学団体研究会編(1977):岩石, 東海大学出版会 7 藤山家徳・浜田隆士・山際延夫監修(1982):学生版日本古生物図鑑. 北隆館 8 波田重熙・吉倉紳一(1999):黒瀬川構造帯の形成とゴンドワナランド, 月刊地球, 第21巻, p845〜850. 9 Hada,S.,Yoshikura,S.& Gabites,J.E.(2000): U-Pb zircon ages for the Mitaki igneous rocks, Siluro-Deboniantuff,and graniti-c boulders in the Kurosegawa Terrane,Southwe-st Japan, The Memoirs of the Geological Society Japan,no.56,p.183-198. 10 浜田隆士(1983):日本化石集39集,S-D-2. 日本のシルル紀・デボン紀化石. 築地書館 11 市川浩一郎・石井健一・中川衷三・須槍和巳・山下昇(1956):黒瀬川構造帯, 地質学雑誌第62巻, p82〜103. 12 石井健一(1952):愛媛県よりゴトランド紀三葉虫の発見,地質学雑誌,Vol.58,p.386 13 石井健一(1956):四国西部の板取川層群,地質学雑誌,62,724号 14 Ishii,K.(1958a):Fusurinids from the Middle Upper Carboniferous Itadorigawa Group in Western Shikoku, Japan.Jour.Inst.Porytechnnics Osaka CityUniv.,Ser.G.,Vol.4,P.1-28(1958b):Fusulina,Beedeina and allied fusulinid genara. ibid p.29-63 15 化石研究会(1971):化石の研究法. 共立出版 16 小林貞一(1950):日本地方地質誌,四国地方,朝倉書店,p271 17 Kozo Watanabe(1991):Fusuline Biostratigraphy of The UpperCarboniferous And Lower Permian of Japan, with Special Reference To The Carboniferous・Permian Boundary 18 益富壽之助・浜田隆士(1966):原色化石図鑑. 保育社 19 三笠市立博物館(1998):三笠市立博物館特別展回録, 日本最古の化石サンゴ展 20 Moore.R.C.[Editor](1966):Treatiseon INVERTEBRATE PALEONTOROGY,(U)Echinodermata.3(2). Geological Society of America and University of Kansas Press 21 桃井斉・鹿島愛彦・高橋治郎編(1991):愛媛の地質. 第4版20万分の1地質図説明書.トモエヤ商事 22 水野岩根・友沢悟(1988):愛媛県立博物館自然科学普及シリーズ8 宇和島地方の地質と化石. 愛媛県立博物館 23 永井浩三・高橋和(1969):愛媛県東宇和郡城川町の洪積世高野子層,愛媛大学紀要自然科 学Dシリーズ(地学),第Y巻第2号 24 永井浩三・堀越和衛・宮久三千年・鹿島愛彦・芳賀幸正(1967):愛媛県の地質. 新版20万分の1地質図説明書. トモエヤ 25 中川衷三・須槍和己・市川浩一郎・石井健一・山下昇(1959):黒瀬川構造帯周辺の地質,徳島大学学芸紀要(自然科学)Vol.\,p.33-58 26 日本古生物学会編(1991):古生物学事典.朝倉書店 27 日本の地質「四国地方」編集委員会(1991):日本の地質8 四国地方. 共立出版社 28 斎藤靖二監修(1994):ジュニア自然図鑑H地球と気象,実業之日本社 29 Syozo NISIYAMA(1968):The Echinoid Fauna From Japan And Adjacent Regi-ons,Part 1. Pubrished By The Paleontlogical Society of Japan 30 田代正之(1992):「化石図鑑」. 日本の中生代白亜紀二枚貝 31 Teiichi Kobayashi and Takashi Hamada(1974):Silurian Trilobites of Japan in Comparison with Asian,Pacific and Other Faunas Published by the Society. |
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あとがき | |
城川町は四国の山奥にある小さな町ですが、他の地域には見ることの出来ない変わった地質構造から成っています。その地質は城川町がまだ黒瀬川村と名乗っていた昭和30年代に詳しく研究され、「黒瀬川構造帯・くろせがわこうぞうたい」と名付けられました。 この黒瀬川構造帯は九州西部から四国を横切り、紀伊半島を経て関東山地まで点々と細長く続いている不思議な地質帯です。その成因については、現在でもいろいろと議論されており、どちらにしても地球のダイナミックな営みがそのカギを握っていることは間違いのない、魅力あふれる地域だといえます。 さて、本町ではかつてシルル紀のクサリサンゴ、ハチノスサンゴ、石炭紀のフズリナ、三畳紀のアンモナイトなどの貴重な化石を産出しました。しかし、今ではその一部分を残すのみで、多くは本館設立以前に散逸しました。 私達は現在残っている化石と、最近新たに採集した化石を中心に、本町周辺地域の化石を加えて記録に残すことの必要性から本書の作成を行いました。 この本が自然・化石に興味を持つ人々にとって少しでも参考になるならこの上ない喜びです。 本町には、地球が残してくれた"たからもの"がまだ数多く存在しています。これらを一つでも多く、きちんとした形で保存し、未来に残すことが出来たら幸せだと思っています。 |
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2000年12月 水野岩根・高橋 司 水野岩根:広見町在住・日本古生物学会会員、日本地質学会会員 高橋 司:城川町地質館学芸員 |
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