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2 城川町の地質
はじめに

 城川町は 「黒瀬川構造帯(くろせがわこうぞうたい)」研究の発祥の地として地質学の分野で重要な地位を占めています。黒瀬川構造帯とは、周りには全く見られない特異な岩石が分布する大規模な断層帯で、少なくとも九州から四国を経て紀伊半島に至るまで、西南日本を東西に延びていることが1950年代に明らかにされました。(市川ほか、1956)(図1

図1 黒瀬川帯の分布

 

 それから30年、地球科学の世界ではプレ−トテクトニクス(注1)の構築(1960年代)などを経て革命的な変化があり、黒瀬川構造帯に対する考え方も飛躍的に変りました。
 最も大きな変化は、黒瀬川構造帯が定義されたころは、大地が地球表層を大規模に移動するなどということは、一般には考えも及ばないことで、岩石は基本的にはその場所で形成されるものということが常識でした。
 ところが、1960年代初めに構築されたプレ−トテクトニクスはそれを根底から覆して、地球表層を構成している岩石は大規模に移動していることを示したのです。実際、1970年代になると四国の地質も新しい理論に基づいて再検討されるようになり、四国の大部分を形作っているのは海洋プレ−トに乗って遠くは赤道地帯から移動してきた岩石で、それがブルド−ザ−でかき集められるように大陸に付け加わったふかたい付加体と呼ばれる地盤であることが明らかにされました。(図2
 それは、枕状溶岩(まくらじょうようがん)、チャ−ト、石灰岩といった海洋底で形成された岩石を特徴的に含む地層(その一部は変成されている)で、その年代がそれまで考えられていたよりずっと若く、せいぜい2億数千万年までの古さしかない古生代末から新生代の地層であることが分かりました。
 これに対して、城川町でいうと、三滝山から嘉喜尾(かぎお)、男河内(おんがわち)に至る黒瀬川構造帯に限って分布する岩石はそれらと全く異なる特徴を持っています。黒瀬川構造帯には、三滝火成岩類(みたきかせいがんるい)や寺野変成岩類(てらのへんせいがんるい)など大陸を代表すると考えられる岩石が特徴的に分布し、しかもその年代は、海洋底起源の付加体よりはるかに古い4.5億年といった古生代前半なのです。

図2 プレート収束境界概念図

 

 そこで、黒瀬川構造帯およびその周辺に分布する岩石は、今はばらばらの破片の集合体になってしまっているけれども、元はちゃんとした大陸を形成していた岩石ではなかったかという考えが生まれてきました。しかも、その大陸は現在の場所にあったのではなくて、起源はかつて南半球に存在したゴンドワナ大陸(注2)であろうと考えられるようになりました。(波田・吉倉、1999)
 さて、城川町の地質は、仏像構造線(ぶつぞうこうぞうせん)とよばれる地質の境界線をはさんで北側を秩父累帯(ちちぶるいたい)、南側を四万十帯(しまんとたい)と名付けられています。(図3
 仏像構造線が町の南端を通過しているため、城川町の大部分が【秩父累帯】に属することになり、南東部のわずかな部分が【四万十帯】に属することになります。
図3 城川町の地質境界図

秩父累帯
 秩父累帯は近年、地層を造る岩石がそれぞれ異なった3つの地質帯に分けられており、それぞれ秩父帯(狭義、北帯)、黒瀬川帯、秩父南帯(三宝山帯(さんぽうざんたい))と呼ばれます。
1.秩父帯南帯
 三畳紀(トリアス紀)からジュラ紀に海洋底で出来た岩石、例えば枕状溶岩、チャ−ト、石灰岩といったような岩石が、海洋プレ−トに乗って遠くは赤道地帯から移動し、それらがかき集められるように大陸に付け加わった「付加体」が分布する地質帯です。付加体はくろせがわこりく黒瀬川古陸にくっ付いた可能性もあるようですが、まだはっきりしていません。
[大茅(おおがや)層、遊子川(ゆすかわ)層]
2.黒瀬川帯
 黒瀬川構造帯およびその周辺に分布する岩石は、かつて南半球に存在したゴンドワナ大陸のなごり名残であろうと考えられています。そして、これらゴンドワナ大陸から分かれて、プレ−トに乗って南からやって来た小さな大陸を黒瀬川古陸といい、この黒瀬川古陸に起源を持つ地質帯を黒瀬川帯と呼んでいます。
 黒瀬川帯も3つに分けることが出来ます。
@黒瀬川構造帯構成岩類
 三滝火成岩類や寺野変成岩類は、4.5億年程度の年令を持ち、三滝山山頂に分布する花崗閃緑岩(かこうせんりょくがん)(三滝火成岩類)のジルコンによるウラン-鉛年代として、439.7±10Maという年代が報告されています(Hada et al, 2000)。Maは年代を示す単位で、100万年に相当します。大陸の基盤を造っていた岩石で、ゴンドワナ大陸に属する岩石だったのでしょう。
 また、おかなろそうぐん岡成層群は、三滝火成岩類や寺野変成岩類の上を覆った石灰岩や酸性火山砕屑岩類(さんせいかざんさいせつがんるい)(注3)から成っており、クサリサンゴやハチノスサンゴを含むことから古生代のシルル紀からデボン紀の地層だということが分かります。オ−ストラリアにも、この時期に同じような火成活動による岩石や近縁の化石が見つかっています。
 こ古ちじき地磁気(注4)のデータから、これらの岩石は赤道地帯で形成されたことが明らかにされています。
 [寺野変成岩類、三滝火成岩類、岡成層群、蛇紋岩(じゃもんがん)]

A古生代付加体
 黒瀬川古陸がアジア大陸の東縁部にくっ付く前、すなわち、赤道地帯にあった時すでに黒瀬川古陸に付加していた地層です。
[板取川(いたどりがわ)層]

Bひふくたいせきそう被覆堆積層
  黒瀬川構造帯構成岩類や古生代付加体を不整合に覆っているペルム紀からジュラ紀の種々の年代の地層です。花こう岩の礫を多量に含む礫岩や酸性凝灰岩(注5)を特徴的に含み、大陸の周りで形成されたことが分わかります。花こう岩の礫の年代も測定されていて、礫岩が堆積していた当時、古陸の下に沈みこんでいた海洋プレートによって引き起こされた火成活動によって形成された花こう岩類であったことが知られています。
[宮成層、土居層、川内ヶ谷層群、成穂(なるほ)層、嘉喜尾層群]

 

3.秩父北帯(三宝山帯)
 ジュラ紀から白亜紀に形成された典型的な付加体と、その上に積もった大陸斜面の堆積層・今井谷層群(注6)が分布しています。
[野村層、高川層群、今井谷層群、菊の谷層]


城川町の生い立ち

四万十帯
 四万十帯にも付加体が分布しています。仏像構造線に接する部分には、その中で最も古い白亜紀初期の付加体が分布し、南へ行くほどその年代は若くなり、フィリピン海プレ−トが沈みこんでいる南海トラフでは現在も新しい付加体が造られつつあります。
 最近では、三宝山帯と四万十帯の付加体ともに、アジア大陸東縁(後に日本列島となる部分)に順番に形成された一連の付加体とみなされています。
[下大野層]



このページに出てきた用語の解説
注1.プレ−トテクトニクス
 プレ−トテクトニクスとは、地球表面は100qほどの厚さを持つ十数枚の岩盤(プレ−ト)に覆われているという考え方。プレ−トが硬い岩盤であるのに対して、その下位の深さ100〜200qの岩層は部分的に溶けていて軟らかい。それで、プレ−トはその上に"浮く"状態になっていて、地球表面を水平に移動することが出来るという考え方。プレ−トの移動によって、火山活動.地震.造山運動といった現象が引き起こされる。
注2.ゴンドワナ大陸
 ゴンドワナ大陸とは、現在の南アメリカ、アフリカ、オ−ストラリア、南極大陸のほか、インド半島.マダガスカルなどを含む一連の巨大な大陸で、古生代から中生代にかけて南半球に存在していたが、現在はばらばらになってしまっている。
注3.酸性火山砕屑岩類
 化学成分SiO2の比率が高いマグマから生じた岩石の破片または同じ火山体の一部を造っている岩石の破片が互いに固結して出来た岩石。
注4.古地磁気
 岩石には、磁鉄鉱のような鉱物が含まれており、岩石ができるときに、これらの鉱物が磁気を帯びるために、その当時の地球の磁場を記録することになる。 古地磁気を調べることにより、その岩石や地層が、地球のどのような場所(緯度)で形成されたのかを推測することができる。
注5.酸性凝灰岩
 化学成分SiO2の比率が高いマグマの噴火で出される火山灰が固まったもの。酸性火山砕屑岩の一種。
注6.今井谷層群
 ジュラ紀の地層で、主に頁岩や砂岩から成り、礁性の"鳥巣石灰岩"を含み、石灰岩からはサンゴ類、石灰藻類、ウニのとげ、腕足類等の化石を産する。

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