周囲を小高い山々に囲まれ、春から夏にかけては水稲の緑色に、実りの秋には黄金色に、冬には白い雪化粧にと四季折々の色彩をみせる宇和盆地。県内有数の米どころとして知られるこの地は、大豆や小麦の産地でもある。
第43番札所明石寺からほど近く新城地区に拠点を構える豆道楽。大豆や小麦を中心に45haもの耕作地を構え、自らが生産した大豆による豆腐は、凝縮された旨味と適度な食感があり、「本物の味」と評判を呼んでいる。
「最初は減反政策からはじまったんよ」と振り返る渡邊社長。この地でイチゴ栽培を最初に手掛けた渡邊氏。その他にもブドウや米など幅広く生産していた約20年前、国の減反政策と安定的な収益確保のため米から大豆、小麦への転作を余儀なくされた。また、認定農業者制度も始まり、地域の耕作地が渡邊氏のもとに集約されていった。
「もともと消費者に届くものをつくりたかったんよ。当時の農家は流通や販売には関わっていなかった。加工品を通じてお客さんの笑顔を見たかったんよ」と渡邊氏、 最初はパンづくりから始まった。しかし、採算にのせるためには多くの種類を製造する必要がある。農作物を生産しながらの開発には限界があった。そこで目をつけたのが豆腐づくり。「子どもの頃に味わった豆腐を再現したい」そう考えた渡邊氏は名店といわれるいくつもの豆腐店を巡った。その数は20軒を超えるという。しかし、目指していた味に出会うことはできない。「もう無理かな」そう考えていた頃、たまたまイチゴの視察に行った中国地方で、農家の女性グループがやっている豆腐店を見つけた。期待せず入店したが、一口食べると昔の記憶が戻った。「この味だ!」。渡邊氏は自ら生産した大豆をそのグループに送り、豆腐をつくってもらった。「そうしたら、うちの大豆でつくった豆腐の方が味しかったんよ。これでイケると思ったね」と振り返る。 読み通り当初から計画の2倍程度売れた。最初は木綿豆腐のみ、それから自分たちが食べていたおぼろ豆腐を商品化。お客様の要望などをもとに今では13~14種類の豆腐を手掛ける。
その美味しさの秘訣は「土と水」だと渡邊氏は言う。新城地区の耕作地は黒ボク土という火山灰土で覆われている。この土は多くのミネラルを含んでいるので有機物を含んだ高品質な大豆が育つ。
その反面、黒ボク土は管理が難しい。豆腐づくりをはじめて数年後、「味が変わった」という苦情が寄せられた。成分分析をすると大豆のタンパク質の値が下がっていた。知らず知らずのうちに土づくりを怠っていたのだ。渡邊氏はたい肥やリン酸、カリウムなどを使用しもう一度土づくりに力を入れた。
豆道楽の豆腐づくりを支えるもう一つの源泉が「水」だ。その水源は深さ55mまで下る。温度は年間を通じて15度前後で保たれ、ミネラルを多く含む。水質は四国山地で採取される水と同等の美しさがあり、カルキはほとんど使用されていない。
上質な豆腐は評判を呼び、今では道後の高級ホテルでも提供されている。「豆腐をつくって、もう一つ良かったことがあるんよ。それは後継者づくり。農業は儲からない、だから後継者もいない、耕作放棄地が増え続ける、と農業は負の連鎖に陥っている。でも、農業でも工夫すれば食っていける。それを証明できたことはうれしかった」と渡邊氏。
豆道楽でも息子の智幸氏が8年前に広島からUターン。約10名の社員をとりまとめ製造や販売を担う。「これからもお客様に喜ばれる豆腐をつくっていきたい。でも、あくまでも当社は農業法人。農作物の品質を守ることが加工品の美味しさにつながる。その原点を忘れないようにしたい」と智幸氏。渡邊氏が築いたDNAは、その味とともに次の世代にしっかりと引き継がれている。
販売所および工場:愛媛県西予市宇和町明石1486
TELおよびFAX:0894-62-1022
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