天まで届きそうな石積みの段々畑。
その段々畑の眼下に佐藤真珠の養殖場と加工場はある。
寒風吹きすさぶ真冬の明浜湾。温暖なこの地域では珍しく、雪もちらちらと降っている。この日は、浜揚げしたアコヤ貝から真珠を取り出す日。小さな貝から育て約5年、核入れして1~2年、これまでの苦労が結実する日だ。
水温が下がり貝の動きが鈍くなるこの時期、貝は栄養をため込み、より繊細な真珠層をつくる。実は、真珠を覆うこの真珠層に光があたることで輝きを放つ。浜揚げのタイミングを間違えると真珠の輝きをも左右してしまう重要な判断だ。
この日は、佐藤社長を中心に約15名の職人が、慣れた手つきで作業をしていた。黙々と続けられる作業のなかにも、初めて顔見えする真珠を手にいつもとは異なる高揚感が漂う。
「大地の結晶、それが私たちの真珠かもしれません」
そう、責任者の二宮さんは語る。
明浜の段々畑は、他の地域のそれとは異なり、石灰岩でできている。その段々畑から海に流れ出る山水はカルシウムなどのミネラルが豊富。真珠層はカルシウムの結晶が集まった層状のもので、1枚の結晶の厚みは約0.4ミクロン(1ミクロンは1,000分の1ミリ)。仮に1ミリの真珠層の巻きを作るのにカルシウムの結晶は2,500枚にもおよぶ。
特に明浜の真珠は繊細な輝きを放つ。光の当たり方によっては珠の中心に青みがさすその上品な輝きは、この地域が持つ気候・風土が関係している。愛媛県の宇和海沿岸は日本最大の真珠養殖の産地であるが、佐藤真珠がある明浜町は養殖場の北限。冬、水温が下がる海の中で真珠を育むアコヤ貝が最後の力を振り絞り、真珠層を重ねることで照りもよく、オーロラの様な光を放つ真珠が生まれると二宮さんは言う。
「先人たちが築いた段々畑をはじめ、この地域の人々は自然を大切に守ってきました。今も地元の生産者団体が農薬の使用を控えたミカン栽培を行っています。私たちも廃油を使った粉石鹸やワカメを育てる海の緑地化運動で、自然との共生を図っています」。
佐藤真珠はこの海で真珠を育てて50年。毎年25万の真珠貝を養殖するが、真珠品評会において受賞歴を持つ熟練したスタッフをはじめ宝石鑑定士の資格を持ったスタッフなどが真珠の養殖・加工・商品化までを一貫して手掛ける、全国でも珍しい存在となっている。そこには「真珠を一番知っている私たちだからこそ、よりよい商品を消費者に届けることができる」という自負がある。
たとえば大粒の真珠による色違いのペンダントや、細かなサイズ違いのグラデーションネックレス、無くした片方のイヤリングの作成など、一つ一つ真珠の個性を生かした商品をつくることができるのも、原料供給できる養殖業者ならでは。一般的には複雑な宝飾品の流通を簡略化することで、適正な価格での販売にもつながっている。一生使う品だからこそ産直にこだわりたい。その想いは、美しい輝きとともにつくり手から、受け取り手へと受け継がれていく。
愛媛県西予市明浜町狩浜2-207-2
電話番号 0894-65-0080 FAX番号 0894-89-1377
URL:http://sato-shinju.com/