その名の通り、肱のように曲がっているからその名がついたともされる肱川。その川は人々の暮らしと密接に関わる恵みの川でもありました。
全国5位の支流数を誇る曲がりくねった川
肱川は愛媛県内で最も長く、流路が103kmもあります。支流が474あり、全国5位の多さです。肱川は、支流も個性が豊かです。例えば、稲生川は流路が北西-南東方向の部分が多いので、この方向の断層に沿って流れている可能性を示しています。黒瀬川や三滝川の流域付近はおよそ4.5億年前の岩石や地層が日本で初めて本格的に研究された場所です。また、舟戸川では深さ100m以上のV字谷が発達し、谷壁に断片的に残る河成段丘面には小規模な集落が見られます。
肱川の流域
宇和盆地の稲作と肱川
宇和盆地を流れる肱川の本流(宇和川)沿いには水田が広がり、江戸時代すでに水の管理を行う水番制が敷かれていたそうです。それでも、水不足に襲われることがあり、谷から流れでる水を溜める「ため池」が盛んにつくられました。現在、宇和盆地には約130ものため池が存在します。特に1644(寛永21)年につくられた関地池は1962(昭和37)年に拡張され、愛媛県内第2位の100万トン貯水量を誇ります。(県内第1位は伊予市の大谷池で、その貯水量は176万トンに達します)。
関地池
南予一帯の柑橘栽培に貢献する肱川の水
さらに水不足に悩まされていたのが、宇和海沿岸に広がる柑橘畑です。もともと柑橘は乾燥に強い種類が多いですが、それでも急斜面の水はけの良い柑橘畑では干ばつの被害にあうことが少なくありませんでした。そこで、1973(昭和48)年に南予用水の事業が始まり、1981(昭和56)年に野村ダムが完成。1996(平成8)年には水道用水・農業用水の継続的な安定供給が可能となりました。南予用水は西予市はもちろんのこと、南予地方の宇和海沿岸一帯に水を供給、総延長は176kmにも達します。
朝霧に包まれた肱川上流の光景
肱川上流の野村盆地や宇和盆地では秋から冬にかけての良く晴れた朝に幻想的な朝霧におおわれることがよくあります。寒暖の差が大きい盆地では、夜間に地表付近の空気が冷やされて飽和し、霧が発生します。山に囲まれた盆地は風が弱いため、朝まで霧が残ることが多く、さらに中心部を流れる肱川からも多く水蒸気が供給され、霧の発生を後押しします。